February 12, 2015

波濤の彼方では

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 小田原後北条氏を滅ぼし、家康を関東に移封、天下統一を果たした1590年、秀吉54才、なぜ彼は明に侵攻しようとしたのか(文禄・慶長の役 )…、「精神の病」、「狂気の沙汰」としか言いようがありません。信長の後を継ぎ、階段を上り詰めた秀吉は絶頂にあり、もはや次に上るべき階段もなく、振り返って見ると、信長以来の盟友・同士:利休は自刃、もうこの世には居ません。

 日本の歴史を通して、天皇家を中心とした血筋の権威、その権威の信仰を受けた社寺の権威に権力が集中しました。武門・武家である源氏・平氏は、臣籍降下により、それぞれの祖と仰ぐ天皇の号をもって氏族の称としました。主に清和源氏をして源氏と称し、桓武天皇の孫が平氏を称しました。

秀吉が小田原攻めの時、鶴岡八幡宮の源頼朝の木像に向かって、 「わしは、貴方とは違い、元々は卑賤の出、氏も系図もない男だ。だからこのように天下を平定したことは、貴方よりわしの功が優れている」と木像の肩を叩きながら言ったと云います。清和源氏直系の頼朝が開いた鎌倉幕府に始まる武家政権は、その後の室町幕府、戦国時代を経て、徳川幕府までの約7百年間続きます。その間、例外だったのは戦国時代、秀吉が頼朝像に語りかける通り、血筋とは全く関係なく、卑賤の身から実力のみで這い上がり、乱世を乗り切ったのは秀吉でした。彼は「天才」と云ってもいいでしょう。

 南北朝の動乱の時期に発生した「婆娑羅(ばさら 梵語(サンスクリット語)のvajra = 金剛石(ダイヤモンド)が語源)」は身分秩序を無視した実力主義、公家や天皇など旧い・伝統的な権威・血筋の権威を否定して、新奇・異風異体なる美意識を持ち、後の戦国時代における「下剋上」につながっていきます。公家から権力を奪取した守護大名・武士はパッとでの成り上がり者で、詩歌管弦などの公家の教養はありません。「寄合(=相談)」は後の「一揆」につながるのですが、その彼等の間に広まったのが中国から舶来の茶器=唐物を用いた「喫茶」という、教養のあるなしに拘わらず、誰にでも参加できる「茶寄合」に発展していきます。
南蛮人渡来図
神戸市立博物館 南蛮屏風
 戦国の時代、「数奇」は「好き」の当て字、本来なら和歌を指した「風流」「風雅」の意味を加えて、「茶の湯」を指すようになりました。「茶の湯に習いはない」とは利休の言、 「茶の湯」の世界に起こった革新が、流行が流行を呼んで、極めて短期間に中世の文化・生活を覆して、遠くにあった「近代」を一気に手繰り寄せました。過去の習慣やしきたり、伝統的権威、社会的制約・束縛にとらわれることなく、「欲するがままに」行動するするのが「数奇」でした。戦国騒乱、社会の大変動の時代、自分の自由意志で行動する新しい人間が誕生しました。

 1587年、秀吉は北野天満宮の境内において、「北野大茶の湯」を催し、これが秀吉と利休、蜜月の頂点となります。信長亡き後、秀吉は革命の同士:利休と共に階段を登ってきたのですが、頂上が見え始めてもなお、利休は次の高みを目指して登っていこうとします。国内の敵対する勢力は全て秀吉にひれ伏した今、彼の「天才」が通じない…学問や教養、文化的価値、美術的価値に重きを置いた平和な世界がやって来るのでは、そんな世界がやって来れば彼の居場所・存在価値はなくなってしまいます。利休の世界に、秀吉は大きな「不安」を感じ、革命同士:利休を排除する頃には既に精神の変調をきたし、明に侵攻しようとした「文禄・慶長の役」は正に狂気でした。 1598年、秀吉62歳、醍醐寺三宝院でにて盛大な花見を開催…、そして死没します。

 今日に云う日本文化・日本的生活様式とは「茶の湯」「数奇」で体系化されたものです。「安土桃山文化」は「元禄文化」に続き、さらに近代を力強く手繰り寄せます。「茶の湯」「数奇」の時代、波濤の彼方ではルネサンスの時代でした。…気になるところです。

参考書:増渕宗一『茶道と十字架 』 村井章介『南北朝の動乱』 児島孝『数寄の革命』 横山 紘一『旅の博物誌』 徳川恒孝『江戸の遺伝子』

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ISAO

映画・音楽・歴史、そして、自己流ながら、水彩画を描いています。思いついたことを、気の向いたままに、イサオなりに、深く掘り下げていきます。 ※お気づきの点、改善すべき点をどうぞお聞かせ下さい。

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