December 25, 2011

タタールもしくは韃靼(ダッタン)

このエントリーをはてなブックマークに追加


聞いたことがあるでしょう、『ストレンジャー・イン・パラダイス Strenger In Paradise』。ここではトニー・ベネットが歌っています。 実はこの曲、ご存じの方も多いとは思いますが、オペラに元歌があり、日本では長い間、『ダッタン人の踊りと合唱』という邦題が親しまれてきましたが、正しくは『ポーロヴェツ人の踊りと合唱 Polovitsian Dances and Chorus 』と呼ぶそうです。



Alexander Borodinこの曲は、アレクサンドル・ボロディンによって書かれたオペラ:『イーゴリ公(1890初演)』の第2幕の序曲として演奏されます。このオペラの原作は、12世紀末、中世ロシア文学の傑作といわれる『イーゴリ遠征物語』でした。

恥ずかしながら…、これを知ったのはつい最近です。
寒い冬が始まったばかりで恐縮ですが…、奈良東大寺二月堂の「お水取り」は春を告げる風物詩として有名です。…が、それ以上の事は全く知りません。関西に住む友人が、3月12日の夜(13日早朝)に行われる秘密の儀式:「達陀(だったん)」を見学する機会に恵まれたそうです。秘儀:『達陀(だったん)の踊り』は極めてユーモラスらしいのですが、「達陀(だったん)」というのは「焼く」という意味の梵語(サンスクリット語)でゾロアスター教にも関係か…、語源も意味も不明な、謎に包まれた儀式です。…が、儀式の持つ異国情緒から短絡的に、「達陀」=「韃靼」では?…かってにイメージを膨らまして、辿り着いたのがこの『ダッタン人の踊り』、どこかで聞いたメロディでした、というお粗末な話でした。同じようなイメージを抱いている人が多いようですが、その可能性はほとんど『0(ゼロ)』です。

元へ。現在のウクライナ、キエフではルーシー(諸侯)が分裂・割拠していました。1061年、ポーロヴェツ人(トルコ系遊牧民族)が侵入、の記録が初めて現れました。以降、1210年までの150年に、約50回もの来襲があったそうです。そんな中、イーゴリは、1185年、 ポーロヴェツ遠征を行います。その時の散文記録が『イーゴリ遠征物語』です。 しかし、ルーシーとポーロヴェツ人との関係は、当初の敵対一辺倒から、互いに内部分裂、敵対と同盟を繰り返し、ポーロヴェツ人が徐々にルーシー社会に溶け込んで行きます。

1223年、ポーロヴェツの地のはるか東より、忽然と、全く未知の軍団が来襲、ルーシーとポーロヴェツ人との連合軍はあっけなく敗北、1236年に再びチンギス・ハンの孫:バトゥの率いるモンゴル軍が来襲、彼等は、モンゴル軍の支配下、ポーロヴェツ人はその先鋒としてハンガリーまで西進、各地で土着していきます。ルーシーの人々は、ポーロヴェツ人がさらに東からやって来た彼等をタタールと呼んでいたのに習って、モンゴル系遊牧民を「タタール」と呼んだのでしょう。ポーロヴェツは別名(東洋史では):キプチャック、モンゴル軍がこの地に建てた国がキプチャク・ハン国です。その後200年間、モンゴルへの服従と貢納を強制されることになり、ロシア史では「タタールの軛(くびき)」と呼ばれます。

中国、漢民族王朝の明の時代、元以来のモンゴルの呼称:「蒙古」を止め、それ以前のモンゴル系遊牧民・夷(えびす)の総称、あるいは蔑称、であった「韃靼」を用いるようになりました。後に、明に代わって女真族(後の満州人)が興した清は、モンゴルの呼称を「蒙古」に戻します。さすがに、現代の漢民族国家:中華人民共和国はそれをもう一度ひっくり返したりはしません。

この「タタール」という言葉、ロシアでは東洋系異民族・異教徒の総称で、モンゴル系であろうがトルコ系であろうが「タタール」で一括りにされてしまいました。『ポーロヴェツ人の踊りと合唱』を日本に紹介するtartar straitに際し、これを踏まえて…、ポーロヴェツ人は「タタール(人)」 → タタール(人)は「韃靼(人)」、ということで『ダッタン人の踊りと合唱』の邦題が付けられたようで、今に至ってもこの邦題に愛着を持つ人が多いようです。

樺太(サハリン島) とユーラシア大陸(北満州・沿海地方)との間にある海峡を、日本ではその発見者に因んで間宮海峡と呼びますが、諸外国では、この海峡をタタール海峡(英語:Strait of Tartary or Tatar Strait、ロシア語:Татарский пролив、中国語:韃靼海峡)と呼びます。

Momo holding sign board-HKX Radio※今までの曲は左サイド、I Pod 風のプレーヤーでお聴きになれます。
Your Support, Please. ボタンを押して下さい。このサイトの順位がわかります。
にほんブログ村 歴史ブログ 諸文化の歴史へ にほんブログ村 音楽ブログ カントリーミュージックへ 人気ブログランキング



トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Profile

ISAO

映画・音楽・歴史、そして、自己流ながら、水彩画を描いています。思いついたことを、気の向いたままに、イサオなりに、深く掘り下げていきます。 ※お気づきの点、改善すべき点をどうぞお聞かせ下さい。

Back Issues At A Glance
Comments
ISAO's Bookshelf
人気ブログ ランキング
NINJA
Search